Part 6:クリスの出産と子育て
その2 クリスの出産
 びっくりして飛び起きて電気を点けると、クリスの頭が私の枕の隅っこに乗っていて、尻尾の下で何やらウニウニ動いている。こういう目覚め方は一番心臓に良くない。アドレナリンがガンガン分泌されて心臓がバクバクしている。でもまだ頭がはっきりしていない。なんとかせにゃ〜。
 とりあえず、血染めの枕を横にのけてから、クリスの体の下にバスタオルをしいてやり、出産セットを取りに階下へ走った(出産セット:木綿の糸、はさみ、BABYを入れる籠、タオル、たらい、お湯、体重計(キッチンスケール)、ビデオ、カメラ、産箱)。すべての道具は居間に用意していたのだ。一度には持てないので、とりあえず籠と糸とはさみと三脚のついたビデオを持って、戻り際キッチンによってやかんを火にかけた。

 戻ってみるともう第1子はツルリと出ており、クリスが羊膜を噛み切って、まさに胎盤を食べようとしている。急ぎビデオをセットする。臍の緒は母犬が噛み切ると言うが、場合によってはひっぱりすぎて臍ヘルニアになることもあると聞いていたので、とにかく臍の緒を糸で結んではさみで切ろうと試みた。しかし子犬はじっとしていないし、クリスはものすごい勢いで胎盤をむさぼって臍の緒を引っ張るので糸が結べない。しかもこちらも手が震えている上に、血液と羊水で手がベタベタ、ぬるぬるして思うように動かない。頼むからひっぱらないで〜。と半べそをかきながらもなんとか結んで切ることができた。

 ひと息入れる間もなく、クリスの息づかいが荒くなりまたいきみはじめた。ダメだ、手が足りない。仕方なく、家から車で通常12〜3分かかるところに住んでいるワン友達のバーニーズのお父さんに応援を依頼する。こういうことになるかも知れないとは前から伝えてはあったが、こんな時間にごめんなさ〜い(バーニーズが出産した時私ビデオ担当だったから許してね〜)。電話している間に第2子が生まれてしまった。大変だ。糸、糸、糸、早く結ばなくっちゃ。あっ、やかんが鳴ってる。産湯の用意。
 
 1頭目は気づいたときにはもう生まれ出ていたのでわからないが、2頭目の子は羊膜が半分破れて生まれてきた。出てくるまでに多少時間があったので、クリスが上手に臍の緒を噛み切った。臍の緒の処理がすんでから、階下に戻ってやかんと残りの出産セットを取って来る。そうそう、玄関のカギをあけておかなくっちゃ。ピンポンでクリスが吠えて飛び出すと大変。

 寝室に戻ると3頭目の頭が出てきていた。今度はしっかり羊膜に包まれている。クリスは上手にそれを噛み切った。ストッキングをかぶった銀行強盗みたいだ。でも、息をしているのを確認するまでちょっと怖かった。3頭目が生まれてくる間、最初の2頭は籠の中に入れておいたが、おっぱいが欲しいのかウイ〜ウイ〜泣きっぱなしである。半分くらい生まれたところで、ピンポ〜ン。お父さんチャイムならしちゃったんだ。クリスは吠えて飛び出しそうになる。クリスに、大丈夫ベスのお父さんだからねと言って体をさすって安心させる。お父さんの顔を見ると、クリスは小さくパタパタと尻尾を振って挨拶した。そうしているうちに3頭目も無事に出てきた。まずは一安心。

 クリスも少し落ち着いてきたので、子犬達に産湯をつかわせる。やっとゆっくり子犬達の顔を見ることが出来た。柄は案の定白と黒。クリスよりハデだぞ。お父さんに似たんだな。最初の子は女の子。もしかしたら君がウチに残る子だよ〜。次は男の子。横っ腹にVの模様が入ってる。3頭目も男の子、この子のブレーズは母さんに似てちょっと細め。みんな元気に生まれて良かったね。クリスも少し落ち着いたのか、子供達をそばに寄せるとやさしく舐めてやっている。キレイになった子供達は早速お母さんのおっぱいに吸い付いた。

 わずか30分ほどの間にツルツルと3頭生まれてしまったが、その後クリスの息づかいはあらいものの、一向に生む気配がない。お父さんと、まだ入っているかなぁ。もうおしまいかなぁ。などとおなかを触ってみるが、素人にはよくわからない。しばらく様子を見ることにする。こんなことだったら、レントゲンで確認しておけば良かったかな?
 予約が入っていたのは男の子が1頭と女の子が1頭。どちらでもかまわないという方が1件。ウチでは女の子を残すと決めていたので、あと1頭女の子が足りない。できればなんとかもう1頭。

 その後の1時間は場所を変えて巣作りしたり、子犬の籠を覗きながら鼻鳴きしたり、横になったりと落ち着かない様子。
 横になってしばらくすると、またいきみはじめた。出てくるぞ。頼む女の子..........。出てきた。なんだかやけに顔が白くてデカイ。さすがに4頭目ともなればクリスも余裕で世話をする。私にもゆとりが出てきた。ゆっくり産湯を使わせて顔を見る。両耳と左目のところだけしか黒くない。面ずれ<君>だ.........。あと1頭.....、ダメかな〜クリス。
 最初の3頭のように次の子がすぐ出てこない。この子で最後かな〜。おなかを触っても今一つはっきりしない。
 クリスは落ち着いて子犬たちにおっぱいをやっている。

 そしてさらに待つこと30分。クリスが大きく息をすっていきんだ。来た、来た、来た。まだ入っていたんだ。黒い頭が見えてきた。頑張れクリス!ツルツルツルリン。前の子の頭が大きかったから通りやすかったんだね。女の子だ。良かった、良かった。そしてこの子が最後の1頭であった。

 すべてが終わって落ち着いたところで、みんなの体重測定となった。初めはニッキー。生まれる前から名前を決めていた。410グラム。次に生まれた子は横っ腹のVの字で、とりあえずVIVI君390グラム。3番目はクリス似の男の子370グラム、なんて呼ぼうか。頭のデカイ面ズレ君は380グラム。白玉あずきと呼ぼう。そして最後はアリス350グラム。この子もオーナーさんがすでに名前を決めていた。クリスの子だからアリス?ん?

 ここからてんやわんやの大騒動が始まる。予感はあったけど......。


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