Part 5:恐怖の皆既月食
 あれは去年(2000年)の7月16日のことだった。我が家のまわりでも久々に皆既月食が見られるというので、日曜日ということもあり、友達とさそいあってタヌキ村(近所の公園)へ皆既月食ツアーに出かけた。
 見上げれば空は雲がまばらで、まさに月食日和。その晩のお供はクリスとニッキーだった。私は10日ほど前に左足の小指を骨折していたので、指には固定の金属をつけ、足は靴が入らないのでサンダルという軽装、歩くのは結構きつかったので車の後ろに自転車を乗せて行き、園内は自転車で移動した。クリスにとってそこは良く慣れた公園であり、私はニッキーの方を主にケアしていた。

 公園についてすぐ2頭とも用を足していたが、クリスが茂みの方に歩いて行ったときは、特に気にもせず、足も痛くて茂みに入れないのでベンチの側で彼女が戻ってくるのを待っていた。2〜3分経っても戻ってくる気配がないので、名前を呼んでみたが返事がない(来る気配がない)。友人が代わりに見てきてくれたが茂みにはいないという。そんなはずはないと思い、私もびっこをひきひき茂みの中を覗いてみたが動くものの気配はない(茂みのあたりは真っ暗なうえに、クリスは地味で見えづらい)。名前を呼んでもカサともしない。みんなで周りを探したが姿は全く見えない。私はニッキーを友人に預け、自転車に乗って公園内を大声でクリスの名前を呼びながら走り回った。園内は殆どが真っ暗で、地面の凹凸がまったく見えず、走っているとすっ飛びそうになるが、それでもがむしゃらに走り回った。月食ツアーに来ていたのは私達だけでなく、そこここで犬を連れたり、カメラを持った人がいたので、会うたびに犬が迷ってきてはいないかと聞いたが返事はノー。園内を一回りした後、車を止めた路上まで見に行ったがそれらしき姿はない。

 私はまた彼女のいなくなった場所へととって返したが、名前を呼びながら涙が止まらない。もう彼女に会えないんじゃないか、もしかして大通りに出て車にひかれてしまったのではないか.....。次から次へと悪いことを想像してしまい、心臓はバクバク、前は涙で見えないし、生きた心地がしない。みんなのいる場所に戻ってみたが彼女の戻った気配はなく、再び園内を疾走。真っ暗で顔は見えないが、行きゆく人が、「まだ見つからないんですか?」と声をかけてくる。もしかしてと、もう一度車を止めた場所に戻ってみた。車の周りにはいない。もうお手上げだった。その時車道を一目散にこっちに向かって走ってくる彼女がいた。あ〜、無事で良かった。私は両手を広げて彼女を迎えた。やっぱり涙が止まらなかった。

 今迄一度だって一人で遠くへ行くなんてことはなかったので、こんな事は想像さえしなかった。何がそうさせたのかは分からないが、昨日まで出来なかったことが急に出来るようになるのと同じで、いつも大丈夫だからというのは通用しないということを思い知らされた。彼女を連れてみんなの元に戻った時には皆既月食は終わり、お月様はまた顔を出し始めていた。それ以後彼女は夜の散歩をいやがり、早く家に帰りたがるようになった。私以上によっぽど恐い思いをしたに違いない。



後日談
 この日を境にクリは急に夜の散歩や花火・バースト等の爆裂音や雷が苦手になってしまい、今までのように気楽に連れて出ることが出来なくなった。このような音に対する恐怖心「音響シャイ」については「あんなこと、こんなこと」の「号外」に載せましたので、お暇な方はご一読を。

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